通信 遠隔

日本外科学会が青森県で日本国内初となる「手術支援ロボットによる遠隔手術」の実証実験を開始

2021年2月22日

一般社団法人日本外科学会は、青森県弘前市の弘前大学医学部附属病院と同むつ市のむつ総合病院との間を高速通信回線で接続し、遠隔ロボット支援手術の社会実証に向けた実証実験を令和3年2月21日から3月1日の予定で行う事を発表しました。この実証実験は「手術支援ロボットを用いた遠隔手術のガイドライン策定に向けた実証研究」の分担研究課題として行うものです。

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イベントの概要

近年、オンライン診療は、コロナ禍のような災害時や医療資源の乏しい地域において特に有用な診療形態として期待されており、国は「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を発して運用方針を定めています。外科医療についても、ロボット支援手術の普及と情報通信技術の進歩を背景として、令和元年の指針改訂時に遠隔手術の実施が指針に盛り込まれ、日本外科学会が中心となってガイドラインを策定し、遠隔手術の社会実装を推進することとなりました。

今回の実証実験は、日本外科学会と関連学会、国内ロボット企業、情報処理技術企業、民間通信事業体、国立研究機関、関連省庁が、産学官一体のプロジェクトとして遠隔手術の社会実装を目指して実証実験を行うものです。実際に遠隔手術の実施が想定される青森県弘前市の弘前大学医学部附属病院と、同むつ市のむつ総合病院を複数の商用の高速通信回線で接続し、国産の手術ロボットを遠隔操作して作動状況の検証や、通信技術ならびに情報処理技術の検証を行います。

遠隔手術が実現することで、地域住民には長距離移動に伴う体力的・経済的な負担を回避して、地元の病院で手術を受ける選択肢が生まれることから、地域外科医療の充実に貢献するものと期待されます。同時に、若手外科医が地方の病院で地域医療に従事しながら技術修練を継続できる環境をもたらすため、地方に勤務する医師の確保や外科医不足の改善にもつながると期待されています。このように遠隔手術の実現は、我が国が抱える地域医療格差や医師不足などの社会的課題の解決の一助となるとともに、デジタル技術を活用した新たな医療技術の開発にも貢献することが期待されています。加えて、遠隔手術システムの輸出を通じた国際医療貢献や、遠隔手術を可能にする高度なデジタル技術の他の産業分野への応用など、多方面への波及効果も期待されています。このように、社会的ニーズが高く、波及効果の大きな研究であることから、我が国の遠隔医療の推進に貢献するためにもリリースを行いました。

遠隔手術の解説

1.実証研究実施の背景について

現在、コロナ禍の中、オンライン診療が注目を浴びています。スマートフォンやタブレット端末、パーソナルコンピュータなどの情報通信機器が普及し、さらに高速光ファイバーや4G, 5Gといった通信ネットワークが発達したことで、患者さんと医師の双方がリアルタイムにお互いの映像を確認し合える環境が生まれたことが背景です。オンライン診療は、コロナ禍のような災害時や、医師不足に悩む地方などの医療資源の乏しい地域において特に有用な診療形態として期待されており、国は「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を発して運用方針を定めています。

当初、オンライン診療は、外来診察や処方を主な対象としていましたが、外科医療についても、ロボット支援手術が全国に普及したことに加え、遠隔ロボット支援手術を可能にするだけの高速大容量・高信頼低遅延通信技術が発達したことに伴い、令和元年7月の指針改定時に新たに遠隔手術が対象に加えられ、世界に先駆けて遠隔手術の実施に向けた法的環境整備がなされました。「指針」では、「高度な技術を要するなど遠隔地にいる医師でないと実施が困難な手術等を必要とし、かつ、患者の体力面などから当該医師の下への搬送・移動等が難しい患者を対象に行うこと。」と記載されています、すなわち、地方の病院に入院する患者さんの手術を現地の外科医がする際に、関連する大学病院に在籍する熟練した外科医が遠隔操作で手術支援をしながら、現地医師と共同で手術を行うような場面を想定しています。

今回、このような遠隔手術の実施条件に合致していること加えて、外科、泌尿器科、産婦人科のロボット手術の指導施設となっている弘前大学と、遠隔医療についてのニーズの高い青森県むつ市から実証実験への協力が得られることとなり、弘前大学医学部附属病院とむつ総合病院を商用通信回線で接続して実証実験を行うこととなりました。通信の専門家によりますと、この地域で得られる通信回線要件の検証結果は、都市と地方にかかわらず、日本全体で遠隔手術に生かすことのできる普遍的なデータとなりうるとのことです。

2.ロボット支援手術と遠隔手術について

ロボット支援手術では、術者は、患者さんと同一手術室内で少し離れた場所に配置された操縦席に座り、通信回線で接続されたロボットアームを遠隔から操作して手術を行います。いわば手術室内の遠隔手術です。さらに、2人の外科医がそれぞれの操縦席に座り、2つの操縦席と1つのロボットアームを接続して、操作権限を相互に移行しながら2人の術者が協力して手術を行うことも可能です。実際、2人の術者によるロボット支援手術は、現在日本中で日常的に行われています。2人の術者が4つの目で確認しながら手術を行いますので、手術の安全性も高まりますし、経験豊かな外科医が若手外科医を指導しながら手術をすることも可能です。

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この二つの操縦席を遠く離れた別々の建物に置き、高速通信ネットワークで接続して手術を行うのが遠隔手術です。情報通信技術が発達し、大容量の映像データやロボット信号データを、安全、確実に、しかも遅延がなく伝送できるようになったことで遠隔手術が理論的に可能となりました。遠隔手術と言いますと、宇宙空間のような極限環境に居る患者さんを、外科医が地球から遠隔操作で手術をするようなイメージを持たれる方もおられるかもしれませんが、今回私達が計画しているのは、そのような「完全遠隔手術」ではありません。患者さんが入院している現地の外科チームがロボット手術を実施される際に、普段から連携のある基幹病院の熟練した指導医が遠隔操作で手術を支援する「遠隔手術支援」です。そのため、緊急事態が発生しても、現地医師が通常の腹腔鏡手術や開腹手術で十分に対応できますので、患者さんは安心です。このほか、広い意味での遠隔手術には、遠隔から手術映像をリアルタイムに確認しながら口頭や指図で指導を行う「遠隔手術指導」も含まれますが、これらは既に行われています。「遠隔手術支援」と「遠隔手術指導」の違いは、前者では遠隔から実際に手術操作を行う点にあります。

3.遠隔手術の歴史と環境の変化

実は、このような遠隔手術の試みは今回が初めてではありません。研究の歴史は古く、2001年には米国とフランスとの間で世界はじめての臨床例での遠隔手術が行われ、2003年以降にカナダでも実施されました。いずれも成功しています。しかし、当時は高額な専用回線使用料や、通信のセキュリテイひいては手術の安全性が担保できないことが問題視され、さらに通信遅延などの技術的問題が原因で開発は中止されています。日本でも国内外と接続して遠隔手術研究が行われましたが、同様に通信遅延の問題を克服できず、研究は棚上げ状態となっておりました。

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それが、近年の情報通信技術の著しい発達によって、遠隔手術の最大の障壁あった通信遅延とセキュリテイの問題が解決される時代を迎えました。5Gの導入などにより、今後高速通信ネットワークがますます発達します。また、従前独占状態であった手術ロボットの特許が切れたことに伴って、世界中で手術ロボットの開発が進んでいます。遠隔手術対応の手術ロボット開発も行われ、我が国でも複数の国産ロボット企業で開発が進んでいます。このように、情報通信技術と新たな手術ロボット開発、さらには法的環境整備が行われたことによって、我が国で遠隔ロボット支援手術が実現可能な環境が整いました。

4.今回の実証研究の内容

今回は、2021年2月21日から3月1日の予定で、青森県弘前市の弘前大学医学部附属病院と青森県むつ市のむつ総合病院との間で遠隔手術の実証研究を行います。参加団体は、日本外科学会遠隔手術実施推進委員会、総務省、厚生労働省、AMED、国立情報学研究所、日本電信電話株式会社(NTT)、東日本電信電話株式会社(NTT東)、株式会社情報通信総合研究所、株式会社ソリトンシステムズ、リバーフィールド株式会社、むつ総合病院、弘前大学です。今回の実証研究では、リバーフィールド社で開発中の手術ロボットを使用します。触覚を有するなど現在普及している手術ロボットとは異なる新たな性能を有しています。なお、2021年度は、2020年8月に製造販売承認された国産初の手術ロボットhinotoriTM サージカルロボットシステム (メディカロイド社)を使用して、同様の実証試験を実施する予定です。

実証実験は、弘前大学医学部附属病院内に整備した遠隔手術研究室に配置した操縦席から、北に約150km離れたむつ総合病院内に設置したロボットアームを遠隔操作して、手術対象臓器に見立てた振動装置や人工臓器に対する遠隔手術を行います。2施設間は複数の商用高速通信ネットワークで接続します。そして、この間の通信ネットワークの状態や伝送信号の圧縮・解凍装置の作動状況、手術ロボットの作動状況等の評価を行って、遠隔手術に求められる至適通信環境と情報処理技術要件、ならびに遠隔手術ロボットに求められる様々な要件を導きだすことを目的としています。
 弘前大学側では、日常的にロボット支援手術を行っている外科医、泌尿器科医、産婦人科医に加え、現在修練中の若手外科医が操作を行って、むつ病院側でロボットの作動状況を検証します。また、民間通信事業体、情報処理企業ならびに国立情報学研究所から情報通信の専門家が参画し、弘前大学側とむつ総合病院側で、通信ネットワークや情報処理技術について評価することになっています。実証研究は、双方の現場映像を相互に確認しながら行われます。

なお今回実証研究の舞台となるむつ総合病院は、青森県のむつ下北二次医療圏の中核病院です。弘前市からは150km、自動車で3-4時間、冬はそれ以上を要します。吹雪の際は交通機関がストップし、自動車での往来も困難となるような地理環境です。そのため、隣接する二次医療圏への移動にも困難や負担が大きく、陸続きでありながら島と同様の環境とも言えます。常勤医師の不足も顕著で、弘前大学からの応援医師を得て、地域医療を支えている病院です。全身麻酔手術も年間800件ほどが行われています。このような背景から、遠隔手術の実証研究の場に選定されました。

5.遠隔手術の社会的意義と今後の発展性について

遠隔手術がもたらす最大のメリットは、居住地域にかかわらず人々に多様な治療法の選択肢が生まれる点です。高齢者で移動が困難な状況でも、遠隔手術に適した術式であれば地元の病院で受ける選択肢が生まれますし、そのことは同時に、若手外科医が地域の病院で診療に従事しながら、質の高い技術修練を積むことのできる環境をもたらすことにもつながります。遠隔手術の実現を通じて、地域外科医療の充実と若手外科医の育成がともに好循環となることが期待されています。

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このような本来の目的以外にも、遠隔手術技術は大きな発展性を有しています。現在、ロボット支援手術の導入時には、プロクターと呼ばれる指導医が現地に数回訪れて指導を行うため、指導医の大きな負担となっています。遠隔手術技術はこの負担を軽減し、ロボット支援手術や遠隔手術の普及を促進します。ロボット支援手術市場の拡大は、多くの企業参加と企業競争を誘導し、廉価で高機能なロボットの開発や新たな情報処理技術の進歩をもたらします。

さらに、遠隔ロボット支援手術は、他のデジタル技術との親和性が高く、今後AIやAR(拡張現実)やMR(混合現実)技術の導入が進められ、より質の高い外科手術の実現が可能となります。また、精緻な遠隔操作技術や低遅延映像伝送技術は、様々な遠隔医療の基盤技術としても活用が期待されます。我が国の高品位の遠隔診療技術を医療資源の乏しい国々に輸出し、国際貢献に繋げることも可能になると期待されます。また、医療業界以外でも、遠隔操作を要する製品管理や修復などに活用され、生産性を高める技術となりえます。このように、遠隔手術推進に伴う波及効果は、地域外科医療の強化という本来の目的にとどまらず、医療や産業の新しいかたちの創出に大きなインパクトを与えると期待されています。

6.今後の予定

冒頭にもご説明したとおり、この実証実験は、AMED採択研究「手術支援ロボットを用いた遠隔手術のガイドライン策定に向けた実証研究」の分担研究課題として実施します。他の分担研究課題として、既に次世代ロボットに係る通信技術に関する研究開発が進捗していますが、4月以降には九州大学と北海道大学を学術情報ネットワーク(SINET 5)で接続して、手術ロボットhinotoriTM サージカルロボットシステム (メディカロイド社)を用いた遠隔手術の実証研究を行うことも予定されています。また、今回と同様の社会実装を目指した接続環境でhinotoriTMを用いた実証研究も実施されます。これらの実証研究データをもとに、経済性や倫理性などの非技術的課題を含めて検討し、最終的には遠隔手術のガイドラインを策定することを目指しています。

【お問合せ先】
 一般社団法人日本外科学会 事務局 総務部渉外課(担当;上沢/定方)
 E-mail;remotesurg_office@jssoc.or.jp
 (リモートワーク中のため、お問合せはメールでお願いいたします)

なお、本件につきまして会見の場を設定させていただきます。
日 時:
2月22日(月)12時30分~13時00分
場 所:
弘前大学医学部附属病院 大会議室
〒036-8563 青森県弘前市本町53番地
https://www.med.hirosaki-u.ac.jp/hospital/
出 席:
森  正樹(一般社団法人日本外科学会理事長・九州大学大学院教授)
庄司 周平(総務省情報流通行政局情報流通高度化推進室長(オンライン出席))
宮下 宗一郎(むつ市長)
福田 眞作(国立大学法人弘前大学学長)
袴田 健一(日本外科学会遠隔手術推進委員会副委員長・弘前大学大学院教授)
担 当:
国立大学法人弘前大学 参事役 太田 修造
TEL;0172-39-5183/FAX;0172-39-5189
E-mail;jm5183@hirosaki-u.ac.jp

※会見はオンラインでも対応いたします。

sauce:プレスリリースより

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